韓国での天然染色の名称と歴史
韓国での天然染色は、植物エキス、鉱物粉末および動物由来の染料を使用して生地等に染色することをいう。天然染色のほかに、自然染色という用語も使用されるが、公文書、博物館や関連機関の名称、工房の名称は天然染色という用語がよく使われる。インターネットを検索してみても、自然染色より天然染色という用語が圧倒的に多く使用されている。韓国での天然染めは、2000年以上の長い歴史を持っている。長い歴史の中で藍、紅花、蘇芳木、アカネ、紫草、クチナシ、柿渋、黄土染めなどが特に発達した(図1)。1950年の韓国戦争以後には1930年代から普及した合成染料が天然染料に急激に代わった。それによって天然染色は1970年代半ばまで探すのが難しいほどまでになった。1970年代後半から2000年までは伝統文化、伝統工芸と繊維芸術面で接近する事例が多かった。2000年以降には、伝統文化のほかに、教育、体験、染料の生産、製品の製造と販売などのアクセスタイプが多様化された(図2)。最近では、天然染色の産業化の面からのアプローチがされているとともに、社会福祉施設、老人ホーム、障害者施設などでの治療と福祉プログラムの一環として導入がされている。
天然染料と染色物の流通
韓国で天然染料として利用されるものは植物性染料、動物性染料および鉱物性染料で区分されている。植物性染料は藍、柿渋, 紅花、マリーゴールドおよびその他のものを採取したり、中国から薬の材料として輸入されたものを利用している(図3)。動物性染料はすべて輸入されたものを利用しており、鉱物性染料は、黄土と炭を微細に粉砕したもの主に利用している。 韓国での天然染色の技法は絞り染め、防染、プリントなどによる文様染技術は活性化していない方だ。また、糸を天然染色する染色および製織工場も設立されていないのが実情だ。工芸的な染色は絞り染めより柿渋や藍染料をメインにして、他の染料と複合染をして、様々な文様を演出する技術が高レベルだ。最近では、天然染色の専門企業の役割が大きくなり、天然染色物の流通も大規模化が進んでいる。
工房の数と産業体
韓国で天然染め工房は700余個がある。工房は、多くの人々が容易に創業することができ、生活空間の周りにたくさんあるので、天然染色に対する、アクセシビリティの向上に大きな助けとなっている。天然染色の企業は、今まで多くの企業が設立されたが廃業し、再び新しい企業が設立されている。その間に、天然染色の大規模化と産業化に寄与している。天然染色製品を様々なアイテムの中の一つを扱っている10余個の会社を除いては、ほとんどの1-5人が運営する工房レベルの企業で生産している。天然染色製品は染材料と密接な関連があり、寝具類とカーテンには、黄土、炭が使われている。衣類品は柿渋と藍染がほとんどを占めるほど多く使用される。ファッション小物は、様々な染料で染色された布を利用して製作される。製品の販売先は製造先の地理的位置とアイテムに応じて、それぞれの流通経路を持っている。
天然染色の関連機関
天然染色の展示や研究機関も設立がされている。韓国文化財庁では、2001年に藍染について大韓民国重要無形文化財第115号染色匠で指定した。藍染継承者2人(尹炳耘さん、鄭官采さん)を大韓民国重要無形文化 財第115号染色匠機能保有者として指定した。(尹炳耘さんは、2010年に死亡した). 大韓民国重要無形文化 財第115号染色匠機能保有者の作業場の近くには、国家重要無形文化財伝授館が 建立されており、藍染め体験実施と遺物を展示している。天然染色の作品を展示して鑑賞することができる天然染色博物館は2箇所に建立されている。全羅南道の羅州市で建立した公立の「韓国天然染色博物館」がある(図4)。大邱には私立の「自然染色博物館」がある(図5)。天然染色の専門研究機関では、(財)慶北天然染色産業硏究院と(財)羅州市天然染色文化財団がある。 (財)慶北天然染色産業硏究院は慶尚北道で、2010年5月に設立し、事務所は慶尚北道の永川市にある。 (財)羅州市天然染色文化財団は羅州市で、2006年4月に設立し、事務所は羅州市にある。
羅州の歴史と位置
羅州は、行政区域上、韓国の南に位置する全羅南道に属している都市である。韓国の古代文化の中心地であった羅州は、栄山江辺の豊かな水と肥沃な土壌、温暖な気候環境のため古代から自然に都市を形成してきた。旧石器時代と新石器時代の遺物が一部の地域で発見され、今も古代の墓が存在しており、古代の墓から出土した金銅冠などはこの地域に古くからの比較的強大な政治権力体が存在したことを物語っている。
羅州市の総面積は608.15㎢であり、韓国の4大河川の一つである栄山江が市街地を貫通して地形を南北に二分している。この栄山江を中心に水路の便易を与えており、羅州平野と称する穀倉地帯を成している。また、錦城山(451m)が市の中心部にそびえていて市街地はもちろん、穀倉地帯である羅州平野をまるで絵のように目で見える。韓国の広域市である光州から西南に26.7㎞の距離に位置し、光州の産業圏の近郊だけではなく、10個の周辺市郡の関門として交通の要衝でもあり、古くから金城山の形がソウルにある三角山とよく似ているということで小京と呼ばれていた。羅州の特産物としては梨、羅州米、メロン、天然染色などがありますが、特に羅州の梨は国内外的にその品質を認められている。
羅州の藍
韓国で藍は数千年前から用いきたており、藍色の空、藍色の海、藍色など、日常的に使用されている言葉にも藍に関連するものが多い。1976年に全国の53歳以上の男女35,423人を調査した結果、この中で5,326名が藍の技能保有者であった報告が示すように、今から70〜80年前までは、韓国のずいしょで藍を栽培し、染料にして染色に用いたのである。他の染料に比べて値段が高く、珍重に扱われても、日常生活の中で手軽く出会うことができ、生活の一部だったものがまさに藍の文化であった。
その中でも特に羅州は有名な藍の生産地で、1900年代の初ごろには、国内外から藍染料を購入する目的で来る人々で門前市を成したという。韓国では2001年8月30日に国の重要無形文化財第115号として染色匠の分野を新たな種目に指定したが、全南羅州市で先祖代々藍染料の製造と染色を伝承してきた尹炳耘氏と鄭官采氏二人を国の重要無形文化財第115号 染色匠の技能保有者として指定された。これにより、羅州の藍染色は伝統的な方法であることを認められ、伝統的な藍染色技術が保存、伝承されている(図6)。
羅州で藍染色の文化が発達した背景
羅州市は古くからの天然染色文化が発達した地域である。その中でも特に藍染料の製造と染色が発達してきたが、それは次のようなものを背景にしている。1) 豊富な日照、水分及び肥沃な土壌
藍の栽培適地は肥沃な土壌、暖かく豊かな日照と水分が必要ですので、栄山江流域にある羅州は肥沃な土壌と水が豊富で、南に位置しており日照もよい。
2) 栄山江の頻繁な氾濫と水位の変化
羅州を貫通する栄山江は、海と陸地をつなぐ疏通路として羅州の産業の発展に大きな役割を果たしていた。しかし、台風が吹いて多くの雨が降る時期にはよく氾濫して農作物に大きな被害を与えたが、藍は時期的に台風が来る前に収穫が可能だったので藍の栽培が発達したといえる。
3) 豊富な石灰と水
藍色素を抽出し、沈殿させる過程では、石灰が必要だが、羅州は、栄山江下流周辺や近くの海で貝やカキ(石花)殻を手軽く購入して石灰を作れる環境が揃っていた。また、栄山江の豊富な水は藍染めや水洗に大きな助けとなった。
4) 絹や綿織物の発達
羅州の地名には、絹を意味する'锦'と'羅'そしてカイコの'蠶'の文字が入っている所が多い。今もシルク村と呼ばれることもある羅州は、昔から桑の木の栽培と絹の文化が発達した地域であり、近代には全国最大蚕糸(蚕丝)の生産地であった。また、羅州は過去秋の栄山江の河原が真っ白だと言われるほどに綿の栽培が多かった所であった。綿の栽培が多いため、綿を用いた織物文化が発達した。このように多くの絹や綿の生産は藍染めの文化の発達動力となった。
5) 染色文化の蓄積と伝承
羅州は高麗時代(918-1392)から朝鮮時代(1932-1910)まで栄山江流域を治めてきた役所(官衙)があった地域であってすべての文化が集まって花を咲かせた。朝鮮時代後期には人口は全国5位、租税は全国首位を占める大きな村であり、“羅州平野が干ばつにおそわれると全国が飢える”という言葉があるほどの穀倉地帯であった。このように官衙があり、大規模な物流の通路でもあった有利なバックをもって自然に多様で美しい工芸文化を発展させる契機になった。従って官服をはじめ色々な服を作り、染める文化もこういう地域的背景で生まれた文化の一つである。
6) 交通の発達と消費市場の存在
羅州は栄山江内陸の奥深いところに位置する港湾都市で、海路が発達して商圏が大きく形成された。陸路も発達して湖南地方の各種集散物が羅州に集まったし、物と共に人も集まって大きな消費市場が形成されるようになった。
(財)羅州市天然染色文化財団
(財)羅州市天然染色文化財団は全羅南道の羅州市が「韓国天然染色博物館」の運営主体とするために設立した。(財)羅州市天然染色文化財団は「韓国天然染色博物館」の運営と一緒に人材養成など、さまざまな事業を行なってきている。韓国政府から支援する事業を誘致した結果として韓国天然染色博物館を中心にして近隣の天然染色の教育と体験センター、羅州市天然染色の工房センター、親環境染色産業化センター、天然染色の糸染めと製織工場、天然染料植物園などを作った(図7)。
天然染色の専門人材の養成のために、教育、書籍発刊、教育プログラムの開発と普及をしている。全国各地で教育を受けられるように、27個の工房や教育機関を指定し、教育プログラムの提供と管理もしている。天然染色指導師の資格制を2009年に開設して1年に2回、天然染色指導師の資格試験を実施している。2014年末までに1083人が受験して685人が合格をした。(財)羅州市天然染色文化財団では、資格証を取得した人には、天然染色に関連する情報を集めて提供したり、展示会に参加し、ワークショップ、協会の構成による活動を行うことができるよう支援をしている。
天然染色の文化商品開発の促進と天然染色作家たちの活動領域を広げるため、2006年から毎年「大韓民国天然染色文化商品大展」を実施している。大韓民国天然染色50人展、招待展や特別展なの展示会も開催している。昨年には、天然染色の分野では初めて世宗文化会館美術館での展覧会を開催した。2013年からは台中市政府文化局葫蘆墩文化中心と共同主管で、台湾と韓国での交互に展示会をしている(図8)。この交流展は、日本、中国など東アジア4-5カ国が参加する形の展示会に発展させるために努力している。研究の面では、これまで羅州での多く生産されている藍植物について集中的にした。現在は天然染色の標準化のための研究を進めている。 韓国の天然染色は、前述したように、教育、文化、工芸、産業などに分化が進んでいる。分化する過程で、多くの人々、工房や企業が試行錯誤を経てきているが、一歩ずつ進みながら、天然染色文化と産業が発展している。
韓国天然染色博物館
韓国天然染色博物館は、財団法人羅州市天然染色文化財団が運営する天然染色文化空間で8,580m2の敷地に建坪面積2,300m2の規模で備えている。建物は大きく展示棟と研究棟、体験棟で区分されているが、展示棟には常設展示館、企劃展示室、ミュージアムショップ、文化コンテンツホールなどがある。研究棟には体験学習室、研究室、企画展示室、セミナー室、ゲストハウスなどがある。また体験棟では体験実習施設が揃っている。
2006年にオープンし時から2009年までは羅州市天然染色文化館という名前を使用した。2009年に韓国天然染色博物館で登録されており、韓国最大規模の天然染色博物館である。博物館は天然染色の遺物や作品展示、招待展、教育、体験など韓国固有の伝統文化の継承と発展のために努力し続けている。2006年9月開館以来、毎年2万人以上が有料体験をしており、6万人が訪問して天然染色文化を樂しんでいる。
- 開館時間 : AM 09時-PM 18時
- 休館 : 1月1日, 元日, 秋夕(当日)
- 入場料 : 無料
- 住所 : 全南 羅州市 多侍面 白湖路 379
- お問い合わせ : Tel。 061-335-0091、 Fax。 061-335-0092